ちょっと長いので、暇な時のどうぞ。
長い海を団体で渡る、一つの形が見られると思います。
では、はじまり。
出発当日 10月15日
朝5時、起床。
朝食を食べて、カヤックを港に下ろす。
道具をチェックして、ストレッチ。
荷物を入れ、食料を積み、地図を張る。
パドル確認して、PFDとスプレースカート、GPS、電話、ライトを体につけた。
装備類の総チェックをする。
空は、明るくなりはじめていた。
となりの人の顔が、しっかりわかるくらいだ。
始めの1時間は、宮古島と伊良部島の影になっている。
風だけが抜けてきて、波はない筈だ。
良い肩ならしになる。
6時半出発。
皆、調子が良いのか、興奮しているのか、早いピッチで漕いでいる。
時速8~9km。
開始早々、飛ばさない方がよい。
前半戦は、波に慣れながらの疲れない確実なパドリングが必要だ。
早い時間に多良間へ接近すると、潮流が逆に流れている。
早く着けばよいといものでもない。
ゆっくり行きましょう。
島影では、丁度、楽しいカヤッキングになった。
小さい波が、ところどころで砕けている。
カヤックのデッキを越えていくようなものはない。
追い風、追い波に押されて、グングン進んでいく。
不安定な動きをしている艇もない。
これが、向かい風なら、我慢の航行になるな、と思った。
向かい風のカヤッキングはひたすら根気比べなのだ。
出発して3時間、既に20km漕ぎ抜いていた。
丁度、島影から離れ、うねりが大きくなる。
目測、カヤックの高さ2倍以上の波の壁が盛り上がる。
波頭が、崩れることが多くなった。
波とタイミングがあってしまうと、カヤックがすっぽり海の中に消える状況。
予報どおり3メートル程の波の中にいる。
それでも、皆、しっかり漕いでいた。
奇声もあげていた。
「いけそうですねぇ!」「行ける行けるよ!」
頼もしい限り。
写真by八幡
森田、滝川艇の中に、水が頻繁に溜まるのが気がかりだった。
「八幡さん、水、出しても良いですか」
「OK~」
1時間に1回のペースで水を外にかきだしていた。
他の艇は、それほど水は溜まっていない。
僕らは、3艇を筏のようにして、各艇をつかまえている。
波が崩れるような中で、パドルを離して水をだすのは難しい。
2人乗りの場合、一人が、カヤックの頭を風上に向けて船を安定させつつ、もう一人が水を出す手もあるが、今は、より安全な方法をとった。
「スプレースカートは、しっかり、しているのにおかしいね」
森田さんのネオプレーンのスカートは問題ない。
滝川さんをチェックする。
すると、スカートが緩すぎて下にずり落ちていた。
「これで少し変わるかな?」
その後、森田艇は、浸水もなく調子が上がる。
ちょっとしたミスだが、大きな問題になる事態。
早めに見つかって良かった。
船を止めている間に、ジワリジワリ、もう一つの問題が近寄ってきていた。
船酔いだ。
僕の前に座っている亀ちゃん(亀田さん)の口数が減ってきた。
「酔ったか?」
「えぇ、少し、でも大丈夫です。止まると気持ち悪いですね」
カメラで、皆の姿を撮ろうと、ファインダーを覗くことも原因だったかもしれない。
吐くまではいかないが、少し辛そうに見える。
パドリングのリズムも乱れ、どうしても、前後のパドルがぶつかってしまう。
デッキに乗せていた、カメラケースがパドリングの邪魔になってもいたようだ。
ケースが大きい為、腕を高い位置に上げて漕がなくてはならない。
肩周りが疲労、手漕ぎを誘発、という悪循環に入っていった。
この後、20kmが携帯電話の電波の入らない、今回の難所だ。
気を引き締めていこう。
ハイブレイス(パドルで艇の転覆を防ぐ技術)ローブレイスで波をかわして進む。
ところどころで、波が崩れていた。
途中、横波を何発かもらう。
頭の上から落ちてくるような波でも、カヤックは大丈夫なのである。
カヤックは、強い。
皆、しばらく、うまく波を受け止めていた。
中間地点の前後10kmは、やはり波が大きくなっていた。
ときどき、海が大きく彫れて上からのしかかる様に落ちくる。
今年渡った、バシー海峡みたいだ、と思った。
三浦、藤井艇に大波が接近していた。
あ、やばい。
おもわず声が出る。
本人達も「やべ」と、とっさに声が出たらしい。
カヤックは、見事に波に消えた。
現れると転覆している。
2人は、波のパワーを相当、感じたのではなかろうか。
レスキューに向かう。
外洋で、カヤックをつかみながら漂う人の姿。
自分が単独で漕いでいる時は、客観的に海とカヤックを見られない。
あらためて、外洋のうねりに浮かぶカヤックを見ると、凄いな、と思う。
どこか映画のワンシーンで見たような・・・海のスケールの大きさ。
360度、海面が大きくうねり、動いている。
人は小さい。
荷物は、流出していなかった。
全ての荷物を、紐で結んでいたらしい。
良かった。
カヤックをつかまえて、水を出して起こす。
荒れた海で、タンデムに入った水を、持ち上げるのは結構、コツがいる。
2人は、僕のカヤックにつかまっていた。
「よし、一人づつ乗りましょうか、ゆっくりで良いですよ」
まず三浦さんが乗り込もうとしていた。
乗っている最中、藤井さんが、何かの拍子にカヤックから離れてしまう。
藤井さんが、カヤックに向かって必死に泳いでいる姿が見えた。
船と人が、風の中で離れたら、まず追いつくことが出来ない。
自分も、何度か痛い目にあっているからわかる。
必死に泳いで、体力を消耗してしまうだけだ。
蜃気楼を掴むように届かないことが、益々、体力を奪っていく。
「藤井さん、泳がないで良いです。森田さ~ん、藤井さんを掴まらしてあげて~」
大声を張り上げる。
藤井さんが、森田&滝川艇に確保されたの確認。
三浦さんが乗船。
藤井さんのところへ向かう。
こちらの船に確保。
再乗艇。
一度乗りかけたが、バランスを崩して、海に落ちてしまう。
後でわかることだが、腰が大分、痛かったようだ。
泳いだこともあって、力がうまく入らなかったのかもしれない。
もう一度、再乗艇。
「寒かったらパドジャケ着てくださいね」
藤井さんの意識は、しっかりしていた。
「うわぁ~やられちゃったよ~」
そういう三浦さんの顔に悲壮感は全くない。
良かった、全然大丈夫だ。
こういうところで、パニックになったり弱気になる人が、一番怖いかもしれない。
ひとつ落ちつこう。
皆、水分を補給したり、エネルギー補給をしている。
僕は、りんごを1個食べた。
塩味が効いて美味しい。
身の回りをチェックする。
GPSを確認すると、30分程、漂流していたのに数百mしか流れていない。
これは、問題なし。
シケ気味の海にいるが、僕等は安全な状態にいる。
航行スピード、ナビゲーション、ともに予定どおり進んでいた。
さぁ再出発しよう。
残り20km程で、多良間島にある鉄塔が見えてきた。
うねりの中で、見え隠れしているが間違いない。
目標物が、前方に見えると、ナビゲーションが容易になる。
気持ちも楽だ。
僕&亀ちゃん艇にも、度々、波がぶつかって来る。
時に、肩から、時に頭から。
「あ、また来たな」
頭からかぶるようなものでなく、肩くらいの波だ。
波側にカヤックを倒し、ブレイスする。
そしてやり過ごす。
いつもの動き、と思ったら微妙に船が波と逆方向に傾きだした。
普通、ここから逆にブレイスを入れて立て直すのだが、体が動かなかった。
撃沈。
水中。ぶくぶく。
あ、どうしようか・・・逆さまの状態で少し考えてしまった。
シングル艇であれば、ロールするのであるが、今回はタンデム。
亀ちゃんは、出てしまっているかな。
何も申し合わせをしていなかった。
まずかったな、と思った。
まぁ、水温も暖かいし出よう。
カヤックから抜け出すと亀ちゃんも出ていた。
自分の荷物は、全く紐で縛っておらず、海に散らばっている。
皆に話をしていて、自分はやっていなかったのだ。
自分は、大丈夫と思う気持ちが事故に繋がる、後に省察する。
カヤックにあがる。
完全にカヤックが湯船のようになっていた。
う~ん、これは自分で排出出来る量じゃない。
他の2艇に寄ってもらう。
森田&滝川艇と三浦&藤井艇のバウ(先端)に僕がまたがる。
三浦さんと一緒に、カヤックを少しづつ引き上げる。
水が満タンのカヤックは、重い。
排水終了。
道具の確認をする。
散らばった道具が、うねりに見え隠れしている。
「藤井さん、道具、拾えるもの拾ってもらっていいですか」
「OK」
大事な物は、なくなっていない。
残った排水を行いながら、三浦&藤井艇見た。
カヤックの3倍はあるような大きなうねりに2人の艇が登っていく姿が見える。
おぉ凄げぇ・・・。
こんな海で道具拾って、なんていっちゃったよ~(笑
あのうねりが崩れていたら、大変だったな。
スプレースカートをして、こちらも、準備完了。
「森田さん、ちょっと流れたもの拾ってきますね」
この波の中で、散らばったものを回収するのも結構、難しい。
次々に押し寄せる波にあわせて、パドルを離し手を伸ばさないといけないからだ。
皆に迷惑をかけてしまった。
「よし、適当な物も拾ったし、こんなもんで良いかな。さぁ行きましょうか」
南海では、大事にいたるよな事態ではないが、まずかったな、と思う。
タンデム艇をシングル艇のように動かしていたこと。
自分が単独で航行するときの、波との向き合い方をしていたこと。
どれも、タンデムの経験と技術、知識の不足から起こった事であった。
ここでひとつ、ちょこっと知識。
もし、他の2艇がいなければ、どうやって排水するのか。
カヤック裏返しのまま2人でスタン(後方)に登る。
バウが上がったところで、船を回転させる。
こうすれば、カヤックに満タン水が入ることはない。
あとは、一人がカヤックの安定させ、一人が排水すればOK。
進路はずっと西、もしくは西南西に向けていた。
北北東の風が10m以上吹いている中、思い通りのコースで進んでいた。
多良間の南に流される事態は、もうないと言っていいだろう。
もし、島より南にもっていかれたら、向かい風10mの中を漕がないといけない。
安全策をとって、島の手前10kmを切るまで、島の北側を狙っていた。
午後3時30分 多良間島 到着。
航行時間9時間、航行距離64kmだった。
平均7km以上で漕いだことになる。
やや追い風だったとはいえ、上出来だ。
港のスロープに上がった皆は、とてもよい顔をしていた。
しぜんと喜びがこみ上げる。
本気で海と向き合って、しっかり自分で消化出来る幸せ。
適当にやっていたり、他力本願では、こうならない。
しかし、到着後は寒かった。
濡れた体に風があたり、体温を奪う。
といっても25度以上あるのだけど、熱帯生活が長い自分は、むちゃくちゃ寒い。
一方、森田さんに限って言えば、全然寒くないという。
濡れた半袖、短パンというスタイル。
人は、これほど違うものだろうか。
写真by八幡
昼食を採っていなかったので、皆、チョコレートやらバンに噛付く。
人影のない港をよいことに、全裸になり、乾いた服を着る。
食べて、体を温める、至福の感覚。
街にいれば、普通の事、いちいち感動しない。
それが今は、有難く感じる。
写真by藤井
容易に、快適なものが手に入る事で、失うことも多いと思った。





コメント
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凄いですね
でもカヤックってこんなに安定性あるなんて・・・
テクニックや知識あってのでしょうが、あえて荒海には挑みませんが、技術を身に付け冒険したいです
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自分は、またまだ程遠いですが、カヤックは乗り手によって、どんな海でも耐えられる乗り物なのだと思います。世界が広がりますね。