バシー海峡横断 その6 縦断成功
スコールが過ぎ去ると、台湾の灯台の光が前に迫っているのに気付く。
思ったより、ゴールは近い。
方向も間違っていなかったし、海の流れも問題ない。
雨雲は、全て去った。
もう漁船にぶるかることもなさそうだ。
気付けば、うねりも大分小さくなっていた。
いつごろから波が小さくなったかは、記憶にない。
到着まで、あと数時間かかるだろうが、もう大丈夫。
今回の旅で、世話になった人の顔が思い浮んだ。
出発して24時間、台湾の南に浮かぶ蘭嶼の風裏に入った。
はじめて、風と波がやんだ。
平和だ。
緊張がとけた。
島ってなんて有難いのだろうか。
本当に安心した。
するとパドルを握る手の平が、酷く痛んだ。
力んでいないつもりでも、力が入っていたのだろう。
脇の下、腰周りは、いつものように擦れて皮膚剥けている。
まだ酷くなっていなくて良かった。
明け方、事務局に連絡する。
「バシー渡りきった。風が西から強い。東の港には、入らない。西側で上陸ポイントを探す」
簡潔な報告。
とりあえず、これで心配しないだろう。
コースタルカヤッキングは快適だ。
明け方、濃紺の時間に、台湾 蘭嶼島の岩山がはっきり見えている。
街の明かりも見える。
充実した気持ちは、厳しい海を越えたからか。
はじめてのことが多かったからか。
よくわからないが、良い気分だった。
越えてみて、感じたことがある。
天候を間違わなければ、世界の海は人力で渡れる、という確信。
昔の人も、きっと荒波の後の平和な島影に、心も癒されただろう。
今回は、バリンタン海峡をイメージどおりに越えたこともあって、
ある程度の強風を越えられるとして出発した。
結果的に、厳しい海の強風を経験出来たことは、とても良かった。
が、この出発の判断は間違っていたと思う。
はじめての海では、慎重さをもっと持つべきだった。
仮に東への流れが、もう少し強くなっていたら
太平洋の大海原を漕がなくてはいけなかった。
上陸する頃には、日が上がり初めていた。
手を見れば、今までに見たことのないマメ、マメ。
全ての間接にマメが出来ていた。
その数21個。
バシー海峡を渡るまでに、硬いマメが出来ていたのに
その上に、さらにマメが出来ている。
バシーの思いでは、マメだと思った。
航行時間25時間の海峡横断となった。
これは、過去の遠征より短い時間であったが
筋肉の疲労具合は、一番だったかと思う。
まだまだ限界は感じないが、波の海峡は楽じゃない。


コメント