バリンタン海峡横断
進路を北に向けてから、順調な航行を続けていた。
午後に入り、西風が強くなっている。
波も大きくなっていた。
後から、そして左手から、水を被ることがあるが、火照った体には気持ちよい。
前方に見える大型タンカーは、横腹を見せている。
この船に、ぶつかる心配はない。
気がかりなのは、うねりと波が大きい分、遠くのタンカーの発見が遅れることだ。
接近してから、気付いたのでは遅い。
いつも以上に、周囲に気をくばらないといけないかった。
途中、シイラが1匹だけ青い背中を光らせながら黒潮の中を走っていった。
周りを見たが群れではない。
鳥が飛んでいるわけでもない。
魚は、何を感じて泳いでいるのか、と思う。
この旅、サメにも亀にもイルカにもあってない。
それだけに、シイラの泳ぎが美しく見え、生き物が確かに居ることが心強く思えた。
3時間後、またタンカーが見える。
今度は、自分のやや後方を横切った。
前回見たタンカーの航路と同じような気がする。
その後、もう一隻、はるか後方にタンカーを見た。
どうも、西へ向かうタンカーは、バリンタン海峡の南よりの航路をとっているようだ。
空に雲が広がっている。
今日は、月が出ない。
もし星が出なければ、はじめての闇夜の外洋である。
今まで避けてきた状況。
選択肢はない。
今夜、暗闇で漕ぐ、と覚悟する。


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