バブヤン島を目指す
早朝、5時30分、アーノルドに見送られる。
風は、南から吹いているが、午後には西風になる筈だ。
そして、このあたりからは、黒潮の影響がでてくるだろう。
北東60km沖合いにあるバブヤン島の集落を目指す。
バブヤン島は、人口こそ少ないが、台湾から移り住んだ人々が生活しているという。
島は大きく、断崖が多く、上陸できる場所は限られている。
50kmは離れているが、島ははっきり見えているのが嬉しい。
直線で結べば、45度、ほぼ北東を向いて漕げばよいが
北への流れを考慮して、カヤックの進行方向は、真東に向けた。
スタートして、海面が荒れている。
深海から急上昇している海底に流れがぶつかり、複雑な波を作り出しているのだ。
高さは、1mくらいだろうか。
頭から波をかぶるようなものでなく、カヤックのデッキの上を海が洗う程度である。
前後左右に船が、揺れるが難しくはない。
パドリングのリズムもそれほど崩れない。
この程度の海は、日本の島々を回れば、各地で経験できる。
まだ、ここは大きな海のぶつかりあいではないのだろう。
しばらくして、複雑な3角波エリアは抜ける。
海は、北へ3キロメートル程で流れていた。
流れが変わらなければ、単純に10時間で30km北へ流れることになる。
カラヤン島の出発地から、バブヤン島の目的地の緯度の差が、30㎞程だ。
東へ50km(約8時間)も漕げば、バブヤン島に近辺につくのだから、
理想的なコースを狙える流れである。
潮流が動き出せば、必ず西への流れが加わる筈だ。
この流れをどう読むかが難しい。
今までのように3kmくらいの流れならば、なんとかなる。
黒潮本流の流れが、もしカラヤン島とバブヤン島の間を抜けているとする。
おそらく時速6km以上で北西に流れるだろう。
これは、昨年、黒潮本流を横切った経験と、バブヤン海峡を渡った経験から予想出きる。
とすれば、東に向けて、漕いでいるだけではバブヤン島には到達出来ない。
もっと南を向けないといけないことになる。
バブヤン島を狙うとすれば、長期戦になることを意味していた。
20時間を越える横断になる。
おそらく目の前に迫っている島へ時速2km以下でしか近づけない。
島に灯台はなく、上陸する陸にも明かりはないだろう。
我慢のパドリングを続けた末、北への流れが強くなったとすれば島に到達できない。
その場合、バブヤン島から80km北にある、サブタン島を目指すことになる。
今日の横断は、最悪の場合を考えて、3日間は、漕ぎ続けられる準備をして出発した。
水、食料、ライト、全ては身の回りにある。
GPSも衛星電話も手元にあった。
単独行では、ちょっとした事前の準備が命に関わってくるのだ。
5時間を経過して、残り30km。
良いペースだ。
が、流れが北西に変った。
スピードは、時速7kmから徐々に落ちてきた。
体の疲れはないが、
少しづつ、イメージしていたルートから
北に外れてきているのがわかった。
まだ西風は吹いて来ない。



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